ダイビル買収、商船三井による TOB

2021年11月30日、 商船三井によるダイビルの TOB が発表されました。気になる価格は1213億円。

商船三井、ダイビルを1213億円で完全子会社化-海運依存度を低減
商船三井は30日、オフィスビルやマンションなどの賃貸を手掛ける子会社のダイビルに総額約1213億円の株式公開買い付け(TOB)を実施し、完全子会社化すると発表した。市況の影響を受けやすい海運事業への依存を減らし、安定的な利益を確保できる体制の構築を目指す。

商船三井によると、買収理由は「売上・利益のリスクを分散させるため」。海運業って、極端な好景気と不景気を繰り返すので、どうにか安定させたい、と言うことだそうです。

そもそも商船三井ダイビルの大株主だったんですね。ダイビル側も、「敵対的」ではなく、「TOB に賛同」。友好的なTOBと言えます。

買付価格は一株当たり2200円。今日の終値が1464円なので、約50%のプレミアムをつけての買収となります。

ダイビルってどのぐらい価値があったのでしょうか?この買収価格は割安なのでしょうか?気になったのでダイビルをチェックしてみます。

ダイビルの概要

いつものようにバフェットコードでダイビルを調べてみます。

上記を簡単にまとめると、

  • 売上高は過去 5年ほとんど横ばい。よく言えば安定している。
  • 営業利益率は大体25%ぐらい。高い。不動産賃貸収入の強さが現れている。
  • セグメント利益で見ると、利益はほとんど不動産賃貸収入。利益率を見ても明らかである。
  •  PERを見ると24倍とそこそこ高い。割安なのだろうか…?

私が気になったのはこのあたりですね。売上利益ともに安定していることから、商船三井のを求める「安定した成績」はしっかりと残せそうです。

その意味で今回の TOBは商船三井の要求に合致したものだと言えます。

しかし11/30で株価は1464円。で、PER は24倍もあります。そして商船三井はさらにこれにプレミアムを乗せて一株2200円で買い取るというのです。

今期の会社予想の一株当たり純利益は約61円です。なので2200円という株価では、

PER=2200/61≒36倍での 購入を意味します。

PER 36倍といえば、この前ロードスターキャピタルと比較した霞ヶ関キャピタルがそのくらいです。

しかし霞ヶ関キャピタルの PER が高いのは、将来性を買われてのことです。ダイビルは今までの成績を見る限り、急成長は望めそうにありません。

ではなぜ、商船三井は2200円ものプレミアムをつけて買収を行うのでしょうか?

読み解く鍵は不動産にあり

商船三井が(一見)高いプレミアムを払ってダイビルを買収する以上、何か秘密があるはずです。

ダイビルは前述の通り、不動産経営を主な事業としています。もしかしたら鍵は不動産にあるのかもしれません。

規模感を知るために、貸借対照表&損益計算書を見てみましょう。 以下は2017年から21年までの貸借対象表&損益計算書の縮尺図になります。バフェットコードより。

パッと見て分かる通り、「資産の積み上がり方」がすごいですね。 毎期の売上が400億円前後に対して、有形固定資産≒不動産は3300億円もあります。

それに対して有利子負債は1660億円ほど。固定負債などを合計しても、2200億円程度にしかなりません。

ダイビルのその他の資産をひっくるめると 約4000億円弱。純資産は時価総額とほぼ同じの1670億円となります。

これだけでもお買い得感がありますが、有価証券報告書のさらに奥へ進んでいきましょう。

貸借対照表に記載されている有形固定資産は、あくまで「取得した時の価格」が書かれているに過ぎません。

ダイビルの創業は1923年。よって、その頃に取得した土地は現在に至るまで地価が上昇しているはず。貸借対照表の簿価が、現在の価値とは乖離している可能性が大きい

では、その価値はどうやって調べれば良いのでしょうか?答えは有価証券報告書に記載されています。

有価証券報告書の、(賃貸等不動産関係)を見てみましょう。ここには、保有している有形固定資産の期末時価が記載されています。

ダイビル2021年3月期有価証券報告書には、次のように記載されています。

なんと、貸借対照表上で約3350億円に過ぎなかった簿価が、期末時価では約5860億円あることがわかります。+2500億円…。

この+2500億円が、含み益として純資産に加算されるとすると、一株当たりの純資産は、

(1670+2500)÷1.1468(億株:株式数)=3636円

となり、2200円を大幅に上回っています。

今回の買収価格:一株2200円は、かなりプレミアムを乗せた値段に見えます。しかし、保有する不動産の含み益を加算すると、これでもかなりお買い得な値段でダイビルを取得できることに。

商船三井は今回の買収により、

  • 不動産賃貸事業による安定した収益を得ることができた
  • なおかつ不動産の含み益2500億円を割安な価格で寝ることができた

ということになります。かなりのやり手だなあと評価します。

まとめ

日本には創業100年を超える企業が3万社以上あり、これはぶっちぎりで世界1位の企業数です。その中には戦前から都会の一等地に土地を保有している企業もたくさんあり、簿価と時価が乖離している企業もたくさんあります

今回のダイビルの買収は、その簿価と時価の差をうまく活用した買収であると思っています。

バブル崩壊による土地神話が消失して30年。その30年間、日本は不動産に対する恐怖心というものがなかなか拭い去れませんでした。

その結果、不動産セクターは不人気となり、物価が上がらなかったこともあって、あまり買い手がいない状況だったのかもしれません(もちろん上がっている銘柄もありますが)。

が、もうそろそろ日本の不動産、特に一等地の不動産に関してはこのような買収劇が繰り広げられるようになるのではないでしょうか。

私の保有するロードスターキャピタルも、その恩恵にうまく与かってくれればいいですけど。笑

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